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JTU弁護団コラム(第1回) 学校現場での新型コロナウイルス感染症への対応

2020年07月09日

<Q>
子どもが授業中などに体調不良を訴え、後に新型コロナへの感染が判明した場合に、保護者から責任を問われないか不安です。責任を問われるリスクを減らすためには何をしておけばいいでしょうか。

<A>
新型コロナウイルスは未知の部分が多い感染症であり、「密閉、密集、密接」の回避に代表される学校現場での日々の対応はとても苦労が多いものと拝察しています。そこで、ご質問には、いま学校現場で何を行っておくことが適切かという視点からコメントします。

学校内の体制作りと学校運営について
感染予防の観点では、新型コロナウイルス対策として示された文部科学省の通知やガイドラインに従って校内体制を整えて学校運営を行うことが出発点になります。文科省の通知等で示された内容は、感染症の知見に基づく適切な予防活動の基準となりますので、それに従った衛生管理体制や安全確保措置を行っておくことが感染予防にとって重要です。そして、基準に従って学校を適切に運営していれば、もし万一子どもが校内で感染した場合でも、学校が保護者から法的責任を問われることはないと考えていいと思います。それは、学校を再開して集団生活を送っている以上感染を完全に防ぐことはできないからです。

校内体制は、各地の感染状況、学校施設や教職員体制などの違いによって変わりうるものです。そこで、教育委員会や学校長とよく協議して、地域や学校毎の個別事情に従った体制作りや学校運営を行ってください。地域や学校によっては、感染者が出ていないから文科省の通知等の一部には従う必要がないという判断もあり得ます(文科省の通知等も「地域や生活圏の感染状況を踏まえ」ということを強調しています。)。また、学校施設等の実情から文科省の通知等をすべて文字通りには実施できないということもあるでしょう。もし仮に、文科省の通知等のとおりに実施できないとしても何らかの代替案を検討し、事前に保護者に対し「通知等のとおりではありませんが、代替として・・という対応をしています。」というように、通知等に従えない実情と代替案の内容を説明しておくことがポイントです。その代替案が社会常識や子どもたちの発達段階等もふまえたときに合理性がある措置であるならば、学校としてはできる限りの配慮をしていることになるからです。そして、その代替案も含めて学校での対応体制をきちんと保護者にも説明しておけば、保護者も学校の対応体制を理解して子どもを登校させるか否かの判断を行うことができます。
法的には、学校には学校施設を利用する子どもたちの心身の健康・安全に配慮する義務がありますが、新型コロナウイルス感染症予防を考慮に入れた対応としては、第1に文科省の通知等の基準に従った適切な体制を整えること、第2に基準に従えない場合には学校や地域の実情に従った代替案を検討して実施することが、法的な責任を問われないためにも重要になります。なお、学校生活の中で子どもが体調不良や発熱を訴えたときに適切な対応をとることは、他の病気や怪我の場合と同じです。

教職員の自覚的な対応
これまで教職員は、子どもたちの学習の遅れや他の教職員の負担増に配慮して、体調に不安があっても無理をして、学校に出勤し授業や校務を行っていたのではないでしょうか。過重な業務負担に加えて、教職員の責任感が結果的に自らの健康を蝕んでいた事例があることが近年の働き方改革で指摘されています。

さて、新型コロナウイルス感染症の拡大状況の下では、働き方改革とは別の視点で、教職員は自らの体調管理により一層の配慮をしておく必要があります。感染症の流行下では、学校内で子どもや他の教職員に感染症をうつさないことが大切になりますので、発熱をしている場合や濃厚接触者であることが明らかな場合には出勤を避け、感染の疑いを払拭してから出勤するようにしてください。
もとより、教職員が新型コロナウイルス感染症を発病したこと自体は法的に責められることではありません。学校設置者には学校で働く教職員の心身の健康・安全にも配慮して感染を防止する義務があり、教職員が職務に関連して感染した場合には公務災害になります。しかし、感染源の如何に関わらず、教職員が感染症に罹患した強い疑いがあるにもかかわらず出勤した場合には、子どもたちや同僚を感染のリスクに晒したとの社会的な非難が避けられません。文科省からは、①教職員本人が罹患した場合には病気休暇等の取得、②発熱等の風邪症状により勤務しないことがやむを得ないと認められる場合には特別休暇等の取得、③濃厚接触者など出勤することにより感染症が蔓延する恐れがある場合には在宅勤務や職務専念義務の免除等の措置をとることが示されています。学校長に連絡して適切な対応をとることが必要です。

組合ができること
子どもたちの心身の健康・安全に配慮した校内体制作りや学校運営を行う第一義的な義務は、学校設置者や学校管理者に対して課せられています。学校毎の代替案の検討や保護者への情報開示も含めた学校内の体制作りと学校運営を検討するにあたっては、職員会議等において学校全体で状況や課題意識を共有することが重要です。
一方で、組合としては、学校現場の声を十分に反映させるために、教育委員会や学校長が適切に義務を果たし学校現場の実情に照らした具体的対応を行うよう交渉や協議を行う必要があります。さらに、教職員の安全確保の観点からは、労働安全衛生法に基づく労働安全衛生管理体制の確立が重要です。衛生委員会の定期的な開催をはじめ、教育活動に専念できる適切な労働環境の確保を求め、交渉や協議を行うことも欠かせません。

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